起業するという選択肢について

不安定な金融情勢、そして先行き不透明な雇用情勢。かつてのように、ただいい大学を出て、いい会社に就職するというレールが、本当にベストな選択肢なのか?そう疑問に感じている方も少なくないのではないか。実を言うと、私もその一人であった。

著名な投資家であり著述家でもあるロバート・キヨサキ氏の書籍に触発され、サラリーマン生活を送る傍ら、副業を真剣に考えたり、不動産投資に挑戦したり、そして起業という道も模索した時期があった。

「起業は十回挑戦して九回は失敗する」。これは、起業の厳しさを端的に示す言葉として、多くの人の心に突き刺さるかもしれない。確かに、新規事業の立ち上げは、想像を絶する困難と試練の連続である。市場のニーズを捉えきれず、資金繰りに窮し、志半ばで撤退を余儀なくされるケースも少なくない。しかし、注目すべきはその後に続く事実である。「たった一回の成功で、十回の失敗を遥かに上回るリターンを得ることができる」。このことは、起業が秘める爆発的な可能性を示唆している。

そして今、起業を取り巻く環境は、数年前と比較しても目覚ましい変化を遂げている。政府や自治体によるスタートアップ支援策は以前にも増して充実し、起業家育成プログラムも活況を呈している。また、ベンチャーキャピタルからの資金調達の機会も増加傾向にあり、革新的なアイデアを持つスタートアップにとっては、追い風が吹いていると言える状況である。「リスクは無い」とまでは言えないが、かつての、起業=一か八かの賭け、というイメージに比べれば、はるかに挑戦しやすい土壌が整いつつあるのは間違いない。

ここで、少し異なる角度から数字で比較してみよう。例えば、多くの人が夢を見る宝くじで一億円を手にする確率は、天文学的な数字、なんと二千万分の一と言われている。一方、スタートアップで事業を成功させる確率は、十分の一と仮定してみる。そして、もしあなたの会社が数年後に十億円でEXIT(株式売却などによる投資回収)できたとする。単純な確率で比較すれば、起業で成功する確率は宝くじの二百万倍、そして得られるリターンは宝くじの十倍にもなる。もちろん、これはあくまで単純な計算であり、実際には様々な要素が絡み合うが、こうして比較してみると、いかに起業という選択肢が、宝くじに夢を託すよりも、はるかに現実的で効率的なのかが見えてくるのではないだろうか。

もちろん、繰り返しになるが、起業は決して安易な道ではない。市場調査、 顧客開発、事業計画の策定、資金調達、人材確保、そして何よりも事業を継続するためのたゆまぬ努力が必要である。多くの困難や予期せぬ壁が、 起業家の前に立ちはだかるであろう。しかし、それらの困難を一つ一つ乗り越え、事業を成長させていく過程で得られる経験と成長は、何物にも代えがたい財産となる。そして、その先には、経済的な成功はもちろんのこと、自身のビジョンを形にし、社会に貢献するという、計り知れない達成感が待っている。

世界に目を向けると、中東のイスラエルなどは、生き残るための戦略としてかなりの数の国民が起業という道を選択するという話を聞いたことがある。金融の世界をリードしてきた民族が、生き残るために今度は自らの手で新たな価値を生み出す起業に、より一層の力を注いでいるのである。

安定志向が強く叫ばれる現代社会において、あえて「スタートアップ企業を立ち上げる」という、一見すると不安定に見えるかもしれないが、実は無限の可能性に満ちた選択肢を真剣に考えてみるのはいかがでであろうか。既成概念にとらわれず、自らの手で未来を切り拓く。それは、困難な道ではあるが、それに見合うだけの大きなリターンが待っているはずだ。