日々の出来事や訪問した海外、読んだ本などに関する感想を日記調で綴っています。

  • 自分のビジネスモデルへの「リーンスタートアップ」の適用の是非について紆余曲折した話

    起業している人、起業を検討している人の中には「リーンスタートアップ」という言葉に聞き覚えがある人もいるだろう。簡単に説明すると、顧客開発やフィット・ジャーニーを意識しながら、なるべくアカウンタビリティを持って事業を進めていく事により失敗を局限する方法論のようなものである。

    ところがビジネスモデルによっては、このリーンスタートアップの枠組みに収めることが適切でないと思われるアイデアもある。例えばアップルなどがその代表例だろう。彼らは顧客開発を行わない。いや、行えない。なぜなら、この世に無いプロダクトを生み出すからだ。こういったゼロイチのビジネスモデルについては、逆に顧客開発をすることで、イノベーションを削いでしまい、革新性の薄い無難なプロダクトになってしまう可能性もある。

    起業家は、起業に失敗したくない。なので、失敗しないための方法論に頼りたくなる。しかし、自分のビジネスモデルはどうだろう。リーンスタートアップを当てはめることができるだろうか?それとも当てはめるべきでないだろうか?そしてそれはどのようにして判断すべきだろうか?

    実は私もこの課題に直面した。失敗したくないからリーンスタートアップに準拠したいが、ビジネスモデルがこの世にまだ無いものなので、それをむりやり準拠させながらプロダクトを作ってもいいものなのか、それとも無視して作ってしまうべきなのか?よくわからない日々が続いた。

    そんなある時、自分のビジネスモデルにある人物が共感してくれ、サポートしてもらうことになった。それがUだった。結局資金調達がうまくいかなかったためチームは解散してしまい、この事業に関しては閉鎖することとなった。

    Uは、比較的早くこのビジネスモデルがリーンスタートアップに準拠できないことを見抜き、CEOである私に行動を促してくれた。そして…失敗した。失敗の原因は単純に私の自己資金が予定よりもずっと早くショートしたことだった。そして改めてこのリーンスタートアップについて考えた。その結果が以下である。

    結論とは、身もふたもない話であるが「自己資金の少ない起業家はリーンスタートアップに準拠すべきである。かつ、リーンスタートアップを適用できるビジネスモデルを選択すべきである。」という至極、当たり前の結論である。

    つまり、私が失敗したのは、リーンスタートアップの概念に収まらない壮大なビジネスモデルを、リーンスタートアップに準拠しなければならないほど戦闘力の低い起業家が扱おうとしてしまった事にあるという事だった。どんなにいいビジネスモデルであったとしても、自分がそれを扱えなければ意味はない。

    起業しようとしているあなたは、今一度、自分がリーンスタートアップを採用した方がいい起業家なのか、はたまた自分のビジネスモデルはリーンスタートアップに収まる事業なのか、それを確認した上で挑戦されることをお勧めする。

  • 自分の家が気になって家系図を作ってみた話

    ある時、ネットニュースで150年を経過した戸籍は破棄されるという記事を目にした。それをきっかけに、ふと自分の家のことを何も知らないことに気づき、取れる限りの戸籍を集めてみることにした。そして、同じ流れでフリーの家系図ソフトを使って家系図を作ってみることにした。

    戸籍の取得は、多少の手間はあったものの、郵送だけで済んだため、1ヶ月も経たないうちに、父方と母方の取得できる限りの大量の戸籍を手に入れることができた。すでに戸籍が破棄されてしまっているものについては「破棄証明」が、戦争で役場ごと記録がなくなってしまった場合は「戦災滅失証明」が、理由不明で戸籍が存在しない場合は「備え付け無し証明」など、戸籍が存在しない場合においてもこういった書類を発行してくれるサービスが役場にはあるようだ。

    これらの情報を元に、「家系図ツールズ(FamilyTreeTools)」というフリーの家系図ソフトを使って、我が家の家系の繋がりを描き出すことにした。数ある家系図ソフトの中でもこのソフトを選んだのは、描画の自由度が高く、見た目を整えやすい(トポロジーの組み替えがやりやすい)からだ。実際に使ってみると非常に使い勝手が良く、最終的には有料版まで購入してしまった。現在は残念ながらこのソフトウェアの更新はされていないようだが、今でも不具合もほとんど発生せず十分に使える優秀なソフトである。他にExcelなどを使った家系図作成ソフトもあるが、ともかくこのソフトは登場人物を盤面の好きな場所に配置でき、見た目を細かく調整できる点が気に入っている。しかし、このソフトはWindowsでしか動かないので、そこだけ注意が必要だ。

    戸籍収集と並行して、両親などにも話を聞いて、家系図に補足情報を加えていった。小さい頃から両親はあまり家のことについて積極的に話してくれなかったため、自分の家がどうなっているのかずっと疑問だったのだが、こうして全体像を把握することができた。

    情報収集の過程では、昔の曽祖母や高祖母の名前の中に、現代でも通用するような可愛らしい名前の人がいたり、結婚した記録がないのに子供がいる人がいたり、他の家に養子に入ったり、逆に養子に来た人がいたりして、これらの人の人生に思いを馳せたりと、色々なことが頭を駆け巡り、中々に面白い情報収集だった。

    両親以外にも、市役所の人などにもあの手この手で情報を聞き出そうとしたのだが、皆「家系図を作るため」と正直に言うと、非常に協力的だったのが印象的だった。一方、手伝ってくれた父は家系図を作るためということを言わずに情報収集をしたため、他人から情報を聞き出すのに苦労したらしい。私が情報収集対象の人に対して正直に「家系図を作るため」と伝えたのは、事前に読んだ書籍「「家系図」を作って先祖を1000年たどる技術」という本に、「相手に『家系図を作るため』と言うと皆からの協力が得やすい」と書かれていたからだ。

    家系図作成を終えて、特に自己認識が大きく変わったということはない。しかし、先祖の中に若くして亡くなった人も多かったことを知り、その中で途絶えることなく自分の代まで命が繋がってきたことは、非常に貴重なことだと改めて感じた。

    もしあなたが、今まで忙しくて自分や家族、先祖について振り返る機会がなかったとしたら、一度、自分の家のルーツを辿ってみることをお勧めする。破棄間近で今しか見られない戸籍も存在する。家系図を作ることは、それほど手間のかかることではない。意外な発見があったり、人によっては意外な発見や、新たな自己認識、はたまた自己肯定感の向上などに繋がるかもしれない。

  • インシデント管理簿原理主義について

    「インシデント管理簿」という言葉を聞いたことがあるだろうか?IT業界でよく使われる問題管理手法の一つで、発生した案件毎に発生日時や担当者、不具合のカテゴリ、優先度等々、複数の項目を割り振り、状況のログを記載し進捗や状況を管理するやり方だ。これは前職にて、とあるプロジェクトで同僚からこのインシデント管理簿を使用した問題管理について手解きを受けた。これが非常に有効で、その後様々な配置についた際に必要に応じてこの簿冊を作り、案件対処に当たってきた。

    一例を紹介しよう。ある時、ある地区で使われているシステムに属する端末のうち、私の担当だけで約七千台の端末の換装を行わなければならなくなった。設置当初は当然、山のように不具合が発生するわけだが、他のチームが不具合の管理に右往左往する中、私はこのインシデント管理簿を使用し、問題の管理と統制をおこなった。そのうち、面白いことに気が付いた。

    その一つが、オペレーション上の優先順位が低い案件や、不具合の影響があまりない小さい案件などを、優先度「低」のフラグをつけて「忘却することなく後回し」にできることだ。機材の納入業社は、自分たちに都合の悪いことは、ほったらかしにすればそのうち納入先が忘却の彼方に忘れてくれることを願っているようなフシがある。それを、記録しておくことによって、一切忘れることなく後回しにでき、より優先度の高いクリティカルな不具合にリソースを割けることができるようになるのである。

    また、もう一つが、同種不具合の相関を取ったり、多数の不具合の全体を俯瞰することにより、問題の根本の推測ができるようになることである。このおかげで、モグラ叩きのように発生した問題に対して反応的に対応したりすることなく、より問題の本質を見極めた上で、その本質に対してリソースを配分することができるようになることである。

    また、問題に対してアサインした担当者を記載しておくことで、責任の所在を明確にし、宙ぶらりんなタスクを発生させないようにしたりする利点もある。

    もう一つ、私がこれは大きいと思う機能は知識管理としての役割である。これまでおこなった処置をログのように記録しておくことから、そこには大量のノウハウが記載されることになる。内容を記述していく中で、これは後々重要な知見になると感じた部分にフラグを立てて後で検索できるようにしておいたり、青字で目立たせておいたりすると、巨大な知識のアーカイブの出来上がりだ。

    また、忘れてはならないのが担当者間の申し継ぎとしての機能だ。担当者がコロコロ変わったとしても、インシデント管理簿がログの機能を果たすので、それを見れば過去に何が起こったか、今何が優先度が高いのかが一目瞭然である。

    以上のように5つの利点を特出しして解説したが、他にもまとめると次のような利点がある。①言った言わないのすれ違いの防止②複数の担当者間の申し継ぎ③内容に応じた優先度の付与付けの容易化④優先度の低い案件を忘却を防止しつつ後回しにすることが可能⑤対処案件の抜け漏れの防止⑥過去対処案件とノウハウ両方の集積による知識の資産化⑦不具合の同時発生時の割り振りの明確化と容易化⑧実施事項や合意事項などのエビデンス化⑨マスデータの蓄積、ざっと数えただけでこれら九つのメリットが存在する。有効に活用できた場合、管理する側から見ると、能率の向上はかなり強烈なものになる。当然、ここで伏線回収だが、インシデント管理簿による管理があまりに便利なため、一度これを使うとインシデント管理簿原理主義ともいうべき熱烈なユーザーに私はなっている。当然、IT業界以外においても様々な業界でこのやり方は転用可能だ。

    ただし、いくつかのデメリットもある。それは、インナースレットに弱いということである。どういうことかというと、メンバーの中にやる気が無い人物がいたとして、その人物がインシデント管理簿への記載を手を抜いて適当に行なったり、悪意のある上書き行為を行った場合、その一連の行為への対応を行なったり軌道修正したりするのに非常に手間がかかるということである。また、もう一つ、管理される側から見ると、インシデント管理簿による管理はそれなりの負担になるため、それを念頭においた上での適切な使用が必要となることは言うまでもない。

  • 司馬遼太郎著「項羽と劉邦」を読んでみた

    司馬遼太郎の本は読みやすい。一部では、やはり史実に対して司馬遼太郎が後からフィクションを付け足している部分もあるので、鵜呑みにしてはいけないという声もあるものの、それにしてもその司馬遼太郎が付け足してくれたフィクションという潤滑油のおかげで、逆に史実(ノンフィクション)の方が頭に入ってきやすいという利点があると考える。

    実際、高校時代に「坂の上の雲」という全6冊の単行本を受験期に読んだところ、世界史の点数が約30点アップしたこともある。これはそれまで高校などで歴史をスポット(点)で縦の暗記していたところを、司馬遼太郎の本は舞台が日本から西洋から横断的に話をしてくれるため、学校で習った知識(点)と知識(点)を横に繋げてくれる効果があったためだと考えている。

    そんなこんなで私は司馬遼太郎の本は好きで、他にも「龍馬が行く」や「花神」「功名が辻」など、折を見て司馬遼太郎の本に親しんできた。そんな中、最近読んだ本で印象に残った司馬作品を紹介してみたい。今回は表題の通り「項羽と劉邦」である。

    この小説が面白いのは、一般的に、世の中の人が考えるリーダーを具現化したような有能な人物像が「項羽」であったのに対し、これまた世間の人がダメな人物と考える典型的なだらしない人物像として描かれているのが「劉邦」であった。しかし、最終的に覇権争いで勝利し、漢の高祖となったのが「劉邦」だというのが一言で言うとかなり荒いあらすじである。

    ではなぜ「項羽」は失敗し、「劉邦」は成功できたのか。これがこの小説のキモであろう。この項羽と劉邦は対照的な人物で、項羽は優秀、有能、勇猛果敢と誰もが認める完成された武将であった。一方の劉邦はだらしないがどこか憎めない、魅力のある人物として描かれている。

    最終的には、部下の結束力を得られ戦いに最終的に勝利したのは人間的な魅力があるとされた劉邦の方であった。残念ながら項羽の方は、垓下の戦いにおいて「四面楚歌」と言う四字熟語を残して亡くなることになる。

    「項羽と劉邦」は、単なる中国の歴史という物語の範疇を超えて、リーダーシップとは何か、人間とは何かについての問いを読者に投げかけてくる。項羽と劉邦という二人の英雄の生き様は、現代社会にも十分に通用する示唆を与えてくれる。逆に、この起業やビジネスの世界でどのような応用が可能か、ここから得た学びをどのように活かしていけるかを今後考える所存である。

  • 起業しようとしたら投資銀行出身&海外大学卒という人物が近づいてきた話と、そこから学んだ6つのこと

    スタートアップ企業を立ち上げようとすると、さまざまな人物が近づいてくることがある。私も興味深い体験をしたので、自分の心の整理と今回学んだことの棚卸しを兼ねて、記事としてシェアするために筆を取った。

    ちなみにビジネスモデルは、とあるレガシー領域をいわゆる創発システム化(平たく言えばマッチング)するものである。くまなく調べたが、本日(2024/03/14)時点では国外を問わず類似のサービスは存在しない。利権が絡む業界ではあるが、この領域を世界規模で創発システム化することが、大きなビジネスチャンスになると考えた。

    そんな中、ある時、私のアカウントに一通のメールが届いた。その送り主が、本記事で取り上げるUという人物で、内容は私の起業をサポートしたいという申し出だった。 Uは米国東海岸の大学を卒業し、誰もが知る米国の大手投資銀行(GSではない)に1年ほど在籍した後、米国で起業し、イグジットも経験したという人物だった。

    華麗な経歴を持つUに、私のビジネスモデルを「面白い」と言われ、有頂天になった私は、これぞ好機とばかりにメンバーに迎え入れることにした。

    ただ、スタートアップ界隈では、派手な経歴を持ちながらも実務がまったくできない人物がいたり、さらに、経歴を誇張してCxOの座を手に入れ、片手間で高額な役員報酬やストックオプションを得ようとする人物もいると聞いていたため、そのため、私も当初はUに警戒心を抱いていた。(なお、一度役員として採用すると、任期中は継続して役員報酬を支払わなければならないため注意が必要である。)

    しかし、Uは雑談の中で、自身の経歴を裏付けるような経験談をいくつも披露した。そのため、Uとの会話を重ねるうちに、私の警戒心は徐々に薄れていった。

    Uは学生時代の出来事、投資銀行での仕事、米国での起業の苦労話などを語ったが、そのどれもが詳細で臨場感にあふれていた。もし彼が経歴を詐称しているのなら、ここまで具体的に語るのは難しいはずだと考えた。

    Uと起業のプロセスを進めるために共同で作業をしていたのだが、そんな中、次第にUに違和感を覚えるようになっていた。

    例えば、一つ例をあげると、まるで漫才のようだが、ベンチャーキャピタル用の資料の読み原稿を作成している時に、とある理由で二つのスライドを合体させる必要が生じた際、Uはそれに伴い、読み原稿の内容も合成すると言い出した。その作業のことを彼は「がっしゃんこ」と呼んだ。

    私は、限られた時間で相手を説得するための口上は、決して「がっしゃんこ」からは生まれないと考えていたし、そもそもいちいち「がっしゃんこ」させて意味の通じる日本語に仕立て上げる作業自体がかなり時間と労力がかかる。本来、相手に思いを伝え、説得するためには、いかに短時間で効果的に話すかが重要であるべきだ。決して「がっしゃんこ」ではない。こんなことは、中学生や高校生でも理解できるだろう。

    しかし、Uはスライドに記載した内容も含め、まるでプログラミングのように原稿を合成したり分離したりして、時間をかけて詳細に相手に伝えることにこだわった。そのため、資料を変更するたびに、無意味で複雑で骨がおれる「がっしゃんこ」が発生し、貴重な時間を浪費してしまった。

    私は、指導を受けている立場として、こんな初歩的なことをUに指摘して、彼の機嫌を損ねたら今後有益なアドバイスをもらえなくなるかもしれないと考え、適切なアサーションを怠ってしまった。その結果、後にJAFCOをはじめとするVC担当者の前で大恥をかくことになった。(他にも「全部吐き出す問題」や「私も動いてみます問題」などがあったが、ここでは割愛する。)

    私が思うに、おそらくUは投資銀行出身で、目論見書などを作成する作業と、プレゼン用の読み原稿を作成する作業を混同していたのではないかと考えている。その一方でこの無駄な作業が、Uにさらにビジネスモデルを理解させるためのものであれば、意味があるかもしれないとも思い、納得することにした。

    つまり、スライド作成の目的がVCへのプレゼンではなく、Uにビジネスモデルをより深く理解させることだと、私は手段と目的をすり替えてしまったのだ。このようなことも我慢しなければならないくらい、この時の私はスタートアップの世界について無知だった。

    ちなみに、Uは他のスタートアップにも参加して同様の指導をしているらしく、そちらではこの「がっしゃんこ」について文句を言われたことがあるようだ。私にも「過去の職場とかでこういうことしなかったですか?」と聞いてきた。もちろんやるわけがない。Uはどうやら自分のやり方に問題があるとは全く思っていないようだった。

    おそらく、Uはプレシードやシード期のスタートアップではなく、もっと後のステージ、例えばIPO前後以降のチームであれば活躍できるタイプの人間なのだろう。おそらく未上場株を欲しがり、スタートアップの内部に入り込んでストックオプションを手に入れようと、このような活動をしているのだろうと考えた。

    結論として、私のステージでUと組んだことは大きな間違いだったと今では考えている。振り返ってみると、Uはスタートアップの初期段階でやるべきことに対する知識が非常に不足しており、リスクの見積もりも極端に甘く、過度に楽観的であった。リーンスタートアップや顧客開発などの知識は、本で勉強していた私よりも知識が無いと思われる節があったぐらいだ。また、私に指導やアドバイスをする際、別の知り合いから聞いた情報をそのまま伝えただけのような節もあった。

    海外の大学を卒業し、投資銀行出身でイグジット経験もあるという点はおそらく間違いないものの、だからといってそういった人物がスタートアップのCxOに必要な知識を持っているとは限らないということを、今回、私自身が身をもって学ぶことになった。また、スタートアップが通常の会社とは異なる特殊な状態や形態を持っているという認識も、今回の経験を通じて新たに得ることができた。

    そうこうしているうちに、ランウェイ(資金)はショートしてしまった。主な原因は、単純に私の個人資金が尽きたことだが、それでもUのアドバイスや指導ではなく、一般的で常識的なプロセスに従って資料作成や事業を進めていれば、作業はトータルで半分の時間で結果を出せていたはずだと、今でも悔やまれてならない。起業経験の不足に加え、彼の派手な経歴と甘い言葉に目がくらんでしまったことが私の失敗だった。

    結果、会社は数十回のVCへのピッチ以外、ほとんど活動らしいことをせず、メンバー3人は解散し、事業を閉鎖することとなった。Uからは「アイデアを温存して、復活後に再挑戦しよう」と提案されたが、この時点で、何一つリスクを負わず、私にはデッドファイナンスを使ってでも事業を続けさせようとするUに対し、不信感が決定的になった。

    このため、私は一度全ての関係を解消し、Uとの縁を切る決断をした。具体的には、Uに対して「事業の閉鎖とメンバーの解散」を宣言したのである。これは、もし私が将来的に復活することがあっても、彼との関係まで復活しないようにするための儀式のようなものであった。今後、彼と組むことは二度とないだろう。

    私は、本当はこの記事で特定の人物を批判することは本意ではない。この記事はあくまで私の経験をもとに、私自身が同じような失敗を繰り返さないために状況を整理し、ここから教訓を抽出することが目的である。また、この記事を世に出してアウトプットすることで、自分の学びをさらに洗練させていきたいと考えている。

    今回の失敗から学ぶことは多かったが、それにしてもかなり高い勉強代となった。元々の私の無知が原因であり、全ては私の未熟さによるものであることは間違いない。それでも、この失敗は私の成長にとって必要な経験だったと思える。

    今回の大きな失敗から学んだことは、以下の通りだ。

    ① 起業メンバーに「投資銀行出身」や「海外大学卒」といった肩書きは、全く必要ない。むしろ、そういった経歴を持つ人物をメンバーに加える際は、慎重に判断しないと、鶏小屋に狐を入れるような危険な事態を招く可能性がある(最悪の場合、CEOを潰してビジネスモデルを自分の投資先の別会社に移植させるなどといったこともあり得る)。

    ② スタートアップは一時的で特殊な組織形態であり、通常の企業とは異なる(スタートアップは大企業の縮小版ではない)。そのため、高学歴の人物だからといって、その人物がスタートアップという特異なチームに適切なアドバイスができるとは限らない。

    ③外部から参加してストックオプションを欲しがる人は、何か問題が起きたときに自分へのリスクを最小限に抑えるため、社外取締役や顧問などのポジションを希望することが多い。おそらく何かあった時にトカゲの尻尾切りのごとく離脱しやすいようにするためだろう。こういった人物は自分の発言に何の責任も負う必要がないため、CEOが判断を誤る元となりやすい。

    ④ CEO(起業家)は資本政策についての勉強を決して他人任せにしてはいけない。特に、ストックオプションの運用方法は非常に重要である。

    ⑤最低でも、PMFぐらいまでは余計なCxOなどをチームに入れる必要は無い。派手な経歴のメンバーはむしろ不必要なダイリューションを招き企業価値の毀損につながる可能性がある。

    ⑥ 違和感は当たる。

    ここまでお読みいただき、ありがとうございました。皆さんの事業の成功を心より願っております。

  • 実は「キャッシュフロー・クワドラント」は「キャッシュフロー・レイヤー」と表現を変えるべきなのではないかと気がついた話

    かの有名なロバート・キヨサキの本に「キャッシュフロー・クワドラント」というものがある。その本には、いわゆる収入の流れには4つの形態(雇用者/E・個人事業主/S・起業家/B・投資家/I)があることが説明されている。

    しかし、私は過去に数々の経験して改めて自分がたどってきた道を振り返ってみた時に、キャッシュフロー・クワドラントは、実は「クワドラント」なのではなく「レイヤー」として表現した方がより実態に合っているのではないかと考えるようになった。

    また、持たざる者が経済的に成功したいと考えた場合、この世の中が「クワドラント」ではなく「レイヤー」だというのを正しく認識しておかないと、のちのち大きな問題を起業家が抱えざるを得ない状況になる可能性があることに気が付いた。そのことについて、この記事で言語化を試みたい。

    ロバート・キヨサキを知らない人は少ないだろう。2000年代初頭に大ヒットとなった「金持ち父さん貧乏父さん」の著者だ。このロバート・キヨサキの2作目の著書が冒頭に取り上げた「金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント」である。実は、私はこの従来型キャッシュフロー・クワドラントには、誤解につながりやすい大きな問題があるのではと考えるようになった。例えば典型的な4象限のあの図である。

    ロバート・キヨサキがキャッシュフローによって4つの区分に抽象化してくれた功績は大きい。しかし、ぱっと見、例えばE(従業員)の人たちが読者の大半であろうから、この立場について考えてみると、彼らは、資産を増やすために、裕福になるために、一番最初にS(個人事業主)、B(起業家)、I(投資家)のうち、どこを目指せばいいのだろうか?従来のキャッシュフロー・クワドラント形式だと、向かうべき方向性がわからない。早く裕福になりたい人や成長を急ぐ人は、まず右下の「I(投資家)」に目が向いてしまうのではないだろうか?

    昨今、サラリーマン大家さんやNISAなどが流行っている。株式市場はまるで桐谷さんを客寄せパンダのごとく祭り上げ、素人を感化して株式投資させようと躍起になっている。NISAなどは国主導で、E(従業員)の人たちの虎の子の貯金を株式市場に流し込むための劇場装置の様相を呈している。どうしたら持たざる凡人が道を間違うことなく、正しい順序で資産を築いていけるようにできるだろうか?残念ながらロバート・キヨサキの複数ある著書のどれを見ても、その答え(順番に関する答え)は載っていない。

    私自身、この答えを見出すために様々な本を読み漁った。その思考過程は複雑になるのでここでは省くが、結論はこうだ。キャッシュフロー・クワドラントによる4象限での表示ではなく、下から「E(従業員)」→「S(個人事業主)」→「B(起業家)」→「I(投資家)」のピラミッド構造こそが、より世の中の実態や仕組みを表している

    また以上から、以下の教訓が導き出せる。

    ①金銭的な意味での支配構造や、持たざる者が持てるようになるために踏むべき段階という意味で、クワドラント表示よりレイヤー表示の方がより現実に近い表示である。このため、このレイヤー表示とした方が、上を目指す者に、自分が今、登るべき山の何合目にいるかを認識させやすく、より失敗も局限させやすい。

    ②持たざる凡人は、上を目指すにあたって決して、特に「S(個人事業主)」を飛び越してはならない。「S(個人事業主)」を飛び越したり、またそれぞれのステップで必要なスキルや知識を身につけていない場合、もし失敗したら、簡単に落ちるところまで落ちることになる。つまり「まずは副業(Sペッグ)から始めよ」ということである。起業家は、もし失敗したら個人事業がセーフティネットになる。個人事業主は、もし失敗したら副業がセーフティネットになる。つまり、富士山に登るためには一合目から登り始めなければならないように、起業家として成功するためには、まずは副業という一合目から始めるべきなのである。

    ③どのレイヤーもカモが欲しいので「あなたも成功できる」という甘い言葉で他のレイヤーにいる人間を引き込もうと誘ってくるが、それに乗ってはいけない。乗ってしまうと無駄なお金を失ってしまう事になる。必ずこのパターンを守るとともに、そのレイヤーで十分に成長するまでは、自分のステージではない場所には手を出さない。恐ろしいことに、省いてはいけない「S(個人事業主)」だけはあまり誰もカモろうとしてこないため、まさに「E(従業員)」の人たちが見落としやすい経由地点になってしまうということも注意が必要だ。

    ④レイヤーの上流を目指した方がより生存に有利となる。E→S→B→Iとピラミッドを上に登っていくにつれ、より抽象的なスキルが必要になってくる。例えば下流だと具体的な金になるスキルが必要だし、上流だと市場の理解や資本政策といった具合に必要なスキルがより抽象的になっていく。このため、この上流で必要とされる汎用的な知識の方が分野を跨いでスキルを使うことができるようになるため、より生存に有利となる。

    ここまでお読みいただき、ありがとうございました。皆さんの事業の成功を心より願っております。

  • 5ヶ月で9キロのダイエットに成功した話と思わぬ副作用に遭遇した話

    昔はどれだけ食べても体重が増えない体質だった。しかし、年齢を重ねるにつれて代謝は確実に落ち、気がつけば体重計の針は70kgを指していた。これはまずい、と真剣にダイエットを考えるようになったものの、これまでダイエットとは無縁だったため、何から始めればいいのか皆目見当がつかない。

    とりあえず、情報収集を開始した。そんな折、YouTubeでDaigo氏の動画の中で「オートファジー」という言葉が飛び込んできた。動画の内容は、細胞が飢餓状態になると脂肪がエネルギーに変わる「ケトン代謝」が活発になり、みるみる体重が減少するといういわゆる「オートファジー理論」に基づいた「16時間ダイエット」に関するものだった。

    この「オートファジー理論」は、東工大の大隅良典教授がそのメカニズムを解明し、ノーベル生理学・医学賞を受賞した、細胞内の不要なたんぱく質や古くなった細胞小器官を分解・再利用するシステムだ。「自食作用」とも呼ばれるこのプロセスを、16時間という食事をしない時間を作ることで意図的に賦活させ、ダイエットに繋げるという考え方に、科学的な裏付けを感じ、実施してみることにした。

    このダイエット法のルールはシンプルで、16時間の断食時間を設けられれば、残りの8時間は基本的に何を食べても良いというものであった。私の場合、夜20時までに食事を終え、翌日の昼12時まで何も食べないというスケジュールで試してみることにした。20時から12時まで、きっちり16時間を確保できる。また、断食中もコーヒーやお茶などカロリーの無いものであれば摂取できるというのも魅力だった。

    実際に試してみるとその効果は驚くほど早く現れた。正月明けから始めて、5月末には9キロの減量に成功。しかも、その後も大したリバウンドは見られない。目標体重に到達した喜びも束の間、この頃から予期せぬ問題に悩まされるようになった。それは、腰痛だった。

    当初、この腰痛の原因が全くわからなかった。まさかダイエットと関係しているとは夢にも思っていなかったのだ。

    その後数年間、太ったら16時間ダイエットを始め、適正体重に戻ったらやめるを繰り返す中で、ふと気がついた。腰痛が起こる時期は、決まって16時間ダイエットを実施している期間と重なっている。

    調べてみると、16時間ダイエットは脂肪だけでなく、筋肉も落としてしまうという情報を見つけた。特に、運動を並行して行わない場合、筋肉量の減少は顕著になるらしい。もしかすると、16時間ダイエットによって腰回りのインナーマッスルが弱体化し、それが腰痛を引き起こしているのではないかと考えた。

    それ以降、極端な16時間ダイエットはやめ、1日の食事回数を少しだけ増やし、少量でも栄養バランスの取れた食事を摂るように心がけた。すると、長年悩まされていた腰痛はとりあえずはみられなくなった。

    今回の経験を通して、オートファジーを活用した16時間ダイエットは、確かに体重減少には効果的だった。しかし、その一方で、運動をせずに安易に続けると、筋肉量の減少という思わぬ副作用を引き起こす可能性があることを身をもって学んだ。

    今後は、もう少し時間に余裕ができたら、適切な運動を取り入れつつ、無理のない範囲で16時間ダイエットを見直してみようと考えている。科学的な理論に基づいたダイエットも、自身の体の状態をしっかりと観察し、バランスを取りながら実践することの重要性を痛感した出来事だった。

  • 不動産業者が画策する「両手取引」と「囲い込み」と「買取り」について

    「両手取引」と「囲い込み」と言う言葉をご存じだろうか?普通の人は、不動産を買う、もしくは売るなど、人生にそう何回もある訳ではないだろうから、そういった言葉は知らないかもしれない。しかし、この言葉を理解しておかないと、いざ、そういう機会が訪れた時に痛い目に遭うかも知れない。

    通常、不動産の取引においては、売主に対して売主側の不動産仲介担当者が、買主に対しては買主側の不動産仲介担当者がそれぞれ付き、売買が成立したらそれぞれ売主側の不動産仲介業者が売主から、買主側の不動産仲介業者は買主からそれぞれ売買代金の3%を仲介手数料として受け取る仕組みになっている。

    しかし、ここで言うこの「両手取引」とは、売主と買主の仲介を一つの仲介業者が仲介し、売買が成立した際には売主と買主両方から仲介手数料を受け取るというスキームである。つまり、このスキームを使えば、2倍の仲介手数料、すなわち片手取引だと3%だった仲介手数料が、両手取引だと6%を受け取ることができるようになるということである。例えば1億円の物件の売買が成立したとすると、片手取引なら300万円の仲介手数料だが、両手取引だとこれが600万円に跳ね上がる。この差は大きい。

    当然、不動産業者は片手取引ではなく、両手取引を行いたい強力なインセンティブが発生する。ここで、この取引を片手ではなく両手にするために、不動産業者が行う数々の不正行為のことを「囲い込み」と呼んでいる。

    この「囲い込み」は具体的には①掲載義務のあるレインズに物件の情報を掲載後、売主に黙って記事をすぐに引き上げる②買主が「買主側の仲介業者を伴って」物件の問い合わせに来た場合には、例え売り出し中であっても売主に黙って「商談中」と偽り追い返すなどといった行為を指す。当然その結果、売主は早く売りたいのに売れないなどといった機会損失につながる。

    更に悪いことには仲介手数料が2倍ともなると、売主に多少売却価格を下げさせても業者は十分に利益が取れるため、仲介業者は買主を自ら追い払っているにも関わらず「なかなか買主が現れないですねぇ」と売主に対しとぼけた嘘を吐き「だから値段を下げましょう!」などと価格の下げ圧力を売主に対してかけることになる。なので売主は物件が売れない上に、泣く泣く物件の価格を下げざるを得ない状況に追い込まれる。いかに散々な状況であるかがお分かりいただけるだろうか?

    そして売主にプレッシャーをかけて十分に価格が下がった状況で仲介業者が変身する最終形態がいわゆる「買取り」である。買取業者が売主に十分に価格を下げさせた物件を買い叩くことを「ブツあげ」と呼ぶ。これは場合によっては十分に利益が上がる場合、両手取引をやめて自分のグループ会社か、もしくはキックバックをくれる、自分が懇意にしている買取業者を連れてくる場合もある。こうして何も知らない売主はハゲタカのような不動産業者に丸裸にされるのである。一般人が何も勉強せずに家の売却や購入で不動産業界に足を突っ込むのがいかに危険かよくわかるだろう。

    ちなみにこの「両手取引」や「囲い込み」は米国では禁止されている。しかし利権に弱い日本では流石に「囲い込み」は禁止されているものの、「両手取引」は合法である。業者が「囲い込み」を行っているかどうかを一般人が見分けたり察知することはほぼできないため、業者からしたら「両手取引」が違法でない限り「囲い込み」はいくらでもできるため問題ないという考えなのである。そして不動産業界が政治献金を行っているせいか、いつまで経ってもこの法律は改正されない。

    では、一般人がこの「囲い込み」や「買取り」に引っかからないためにはどうしたら良いか?それは、十分に時間の余裕を持って売却に臨むことと、不動産の勉強をすること、更に重要なのは、「専任媒介と専属専任媒介を拒否して一般媒介で取引を行う」こと、あとできれば路線価や公示価格、積算評価や収益還元評価などを参考に、売却価格を自分で決めることである。他にも都道府県の宅建協会もしくは国交省など、それに類する団体が出しているそれなりの雛形を契約書に使い、決して仲介業者が自分で作った契約書で契約を結ばないなどといった防御策もある。談合を防ぐために取引業者の非明示といった方策も考える必要があるだろう。これらはそんなに難しいことではない。インターネットにも情報が転がっている。

    一時期ネットニュースでも話題になったが、これら「囲い込み」や「両手取引」、「買取り」などのスキームは大手の財閥系、銀行系不動産業者であっても、町の小さな不動産業者であっても関係なく行っている。真面目な一般の日本人が悪徳不動産業者に引っかからないよう願ってこの記事を書いた次第である。

  • ある突然普段の3倍ぐらいのスピードとパワーで仕事ができるようになった話

    誰の身にも起こりうるちょっと変わった経験をしたのでシェアしてみたい。私の好きな食べ物の一つに牡蠣がある。昔、仕事で広島に住んでいた頃は、週に一度ほど同僚と車で島の牡蠣小屋に出かけていた。海から牡蠣がベルトコンベアで引き上げられるのを横目に、炭火で焼いた牡蠣を楽しんだものだ。

    それはさておき、ある時、当時付き合っていた彼女と偶然、広島の街中で牡蠣を食べる機会があった。その後、別れて一時間ほどかけて自宅に戻り、さらに家の近くの食堂でも牡蠣を食べた。

    翌日、出勤のため、当時自転車通勤に使っていたマウンテンバイクにまたがり、7kmの道のりを職場へ向けて出発した。

    途中、踏切を渡ろうとした瞬間、突然猛烈な吐き気に襲われ、線路の手前で黄色い胃液を吐いてしまった。すぐに職場に連絡して休みをもらい、そのまま病院へ向かうことにした。

    病院での診断は、確か「急性細菌性腸炎」だったと思う。いわゆる食中毒だ。医師からは24時間の絶食を指示され、幸い症状は軽かったため、翌日には職場に復帰した。

    部下からは「治るの早すぎませんか?本当に牡蠣に当たると、もっと地獄のような痛みですよ」と言われたが、それはさておき、問題は絶食だった。 当時まだ20代で食べ盛りだった私は、当然ながら空腹を感じた。それでも医師の指示を守り、24時間が経過するまでは食事を我慢した。

    当然、空腹のまま仕事をすることになったが、当時は若くして幹部として勤務しており、かなりの激務をこなしていた。その日も、前日に休んだ分を含め、大量の仕事を処理しなければならなかった。

    デスクについて早速仕事を始めたところ、あることに気づいた。自分の体に力がみなぎっているのだ。絶食でお腹が空いているはずなのに、これは一体どういうことだろう。

    結局、私はその日、普段の3倍ほどの頭の回転、スピード、パワーで仕事をこなし続けた。自分でも驚くほどのパフォーマンスだった。あまりにも普段と違い、パフォーマンスが良すぎたため、その原因を探ることにした。思い当たるのは、絶食による空腹の影響ぐらいだった。

    後日、インターネットで調べてみると、空腹が体に与える影響に関する情報が山ほど出てきた。もしかしたら、自分が知らなかっただけで、空腹がパフォーマンスに良い影響を与えるのは常識なのかもしれない。調べてみたところ、代表的な影響は以下の通りだ。

    ①脳内でアセチルコリンの分泌が促され、脳が活性化する②消化吸収機能を休ませることで、老廃物の排出や体の修復が進む③善玉ホルモンが分泌され、血管の流れが改善される④その他、多くのメリット

    そうこうしているうちに、タイムリミットである24時間が経過し、その日の夕飯を食べることになった。ご想像の通り、翌日以降の仕事のパフォーマンスは、元の自分に戻っていた。

    余談だが、一度牡蠣に当たると、その後牡蠣を食べられなくなることが多いと聞く。しかし、私はそうはならなかった。これ以上のオチは無いが、人体の不思議と可能性を感じた出来事であった。

  • UA232便不時着事故の凄さについて

    1989年にアメリカで起こったユナイテッド航空232便(以下、UA232便)の事故を知っているだろうか?YouTubeで動画を見た人もいるかもしれないが、一見するとよくある航空機の爆発炎上事故に見える。

    しかし、この事故が凄いのは、飛行中に全ての油圧を失い、操縦がほとんどできない状況に陥ったにも関わらず、パイロットたちが機体を何度も旋回させ、滑走路の端まで誘導したということだ。一体、全ての舵が効かない状態でどうやって機体をコントロールしたのか?

    その答えは、「エンジン・ディファレンシャル」と呼ばれる、機体のコントロール方法にあると言われている。これは、左右のエンジンの出力を別々に操作することで、エンジンの推力差を生み出し、それによって機体のピッチとバンクのコントロールを行ったというものだ。右のエンジンの出力を上げれば機体は左へ、左のエンジンの出力を上げれば右へ曲がる。これは、非常に繊細な出力調整を絶え間なく行う、高度な技術を要する操縦方法だ。

    昭和生まれの人なら気づくかもしれないが、この事故は1985年に起きたJAL123便の墜落事故と、操縦不能に陥った状況(油圧の全損)がほぼ同じだった。しかし、UA232便には、なんとJAL123便の事故を受けて、エンジンの推力差で生還する方法を研究していたパイロットが、たまたま非番で乗り合わせていたのだ。彼の名はデニス・E・フィッチ。彼はコックピットで、機長のアルフレッド・C・ヘインズ、副操縦士のウィリアム・R・レコックと共に、前例のない操縦に挑んだ。

    詳しくはWikipediaの記事が詳しいが、全員が亡くなってもおかしくない状況で、乗員乗客296名のうち、7割にあたる215名が生還したのだから驚きだ。パイロットたちはその後、英雄と称えられたそうだ。

    ちなみに、この出来事は「レスキューズ/緊急着陸UA232」という映画にもなった。しかし残念ながら、映画の中ではこの驚くべき機体のコントロールにはほとんど触れられておらず、取り上げられているのは、地上での救難活動の頑張りの様子がほとんどだった。その後、NASAで検証が進み、結果、人間による同様(エンジン・ディファレンシャル利用)の安全な着陸は不可能だと結論付けられたため、コンピューターによる制御の研究にシフトし、搭乗員に対するこの操縦方法は訓練されていないそうだ。

    制御不能に陥った巨大な機体を、エンジンの推力差だけで操り、多くの命を救ったパイロットたちの技術、そして、その研究を偶然にもしていた人物が居合わせたという奇跡。UA232便の事故は、航空史に残る驚異的な出来事として、今も語り継がれている。