ある時、ネットニュースで150年を経過した戸籍は破棄されるという記事を目にした。それをきっかけに、ふと自分の家のことを何も知らないことに気づき、取れる限りの戸籍を集めてみることにした。そして、同じ流れでフリーの家系図ソフトを使って家系図を作ってみることにした。
戸籍の取得は、多少の手間はあったものの、郵送だけで済んだため、1ヶ月も経たないうちに、父方と母方の取得できる限りの大量の戸籍を手に入れることができた。すでに戸籍が破棄されてしまっているものについては「破棄証明」が、戦争で役場ごと記録がなくなってしまった場合は「戦災滅失証明」が、理由不明で戸籍が存在しない場合は「備え付け無し証明」など、戸籍が存在しない場合においてもこういった書類を発行してくれるサービスが役場にはあるようだ。
これらの情報を元に、「家系図ツールズ(FamilyTreeTools)」というフリーの家系図ソフトを使って、我が家の家系の繋がりを描き出すことにした。数ある家系図ソフトの中でもこのソフトを選んだのは、描画の自由度が高く、見た目を整えやすい(トポロジーの組み替えがやりやすい)からだ。実際に使ってみると非常に使い勝手が良く、最終的には有料版まで購入してしまった。現在は残念ながらこのソフトウェアの更新はされていないようだが、今でも不具合もほとんど発生せず十分に使える優秀なソフトである。他にExcelなどを使った家系図作成ソフトもあるが、ともかくこのソフトは登場人物を盤面の好きな場所に配置でき、見た目を細かく調整できる点が気に入っている。しかし、このソフトはWindowsでしか動かないので、そこだけ注意が必要だ。
戸籍収集と並行して、両親などにも話を聞いて、家系図に補足情報を加えていった。小さい頃から両親はあまり家のことについて積極的に話してくれなかったため、自分の家がどうなっているのかずっと疑問だったのだが、こうして全体像を把握することができた。
情報収集の過程では、昔の曽祖母や高祖母の名前の中に、現代でも通用するような可愛らしい名前の人がいたり、結婚した記録がないのに子供がいる人がいたり、他の家に養子に入ったり、逆に養子に来た人がいたりして、これらの人の人生に思いを馳せたりと、色々なことが頭を駆け巡り、中々に面白い情報収集だった。
両親以外にも、市役所の人などにもあの手この手で情報を聞き出そうとしたのだが、皆「家系図を作るため」と正直に言うと、非常に協力的だったのが印象的だった。一方、手伝ってくれた父は家系図を作るためということを言わずに情報収集をしたため、他人から情報を聞き出すのに苦労したらしい。私が情報収集対象の人に対して正直に「家系図を作るため」と伝えたのは、事前に読んだ書籍「「家系図」を作って先祖を1000年たどる技術」という本に、「相手に『家系図を作るため』と言うと皆からの協力が得やすい」と書かれていたからだ。
家系図作成を終えて、特に自己認識が大きく変わったということはない。しかし、先祖の中に若くして亡くなった人も多かったことを知り、その中で途絶えることなく自分の代まで命が繋がってきたことは、非常に貴重なことだと改めて感じた。
もしあなたが、今まで忙しくて自分や家族、先祖について振り返る機会がなかったとしたら、一度、自分の家のルーツを辿ってみることをお勧めする。破棄間近で今しか見られない戸籍も存在する。家系図を作ることは、それほど手間のかかることではない。意外な発見があったり、人によっては意外な発見や、新たな自己認識、はたまた自己肯定感の向上などに繋がるかもしれない。