学生時代に部室でタヌキに遭遇した時の話

学生時代にとある、部活に所属していたのだが、ある日、黄昏たくなって学生寮を抜け出し、コンビニでハンバーガーを買って星を眺めながら夜道を歩き、誰もいない部室に辿り着き1人でベンチでムシャムシャとハンバーガーを食べていた。

ふと部室の入り口を見ると、一匹のたぬきがじっとこちらを見ていることに気がついた。全く音を立てずに入り口に現れたため、私はハンバーグを食べ終わるまで、その存在に全く気がつくことができなかった。思わず自分はさっきまでハンバーガーを持っていた指先とたぬきを交互に見てしまった。「もう少し早く現れてくれれば、ハンバーガーを分け与えてやれたのに!」と。

仕方がないので、おそらくハンバーガーの肉汁がついているであろう手をたぬきにしゃぶらせてやろうと思い、「さぁ、好きなだけしゃぶれ!」と言わんばかりにたぬきの方に手を差し伸べた。たぬきはトコトコとこちらに駆け寄り、自分の指を噛んで引っ張っていこうとした。たぬきはどうやら犬歯が無いらしく、噛まれても全く痛くはない。

しばらくそんな不思議な時間が流れた後、私は立ち上がり、部室の外に出た。すると、さっきのたぬきの家族なのか、小さなたぬきも含めて総勢3、4匹ほどのたぬきが、部室グランド脇の駐輪場に群がってこちらに駆け寄ってきた。これまで何度も部室には来ていたが、そもそも犬猫以外の動物をこの辺りで見かけたこと自体が初めてだ。いや、たぬきと、それもたぬきの群れとこんな近くで近接遭遇すること自体が初めての経験だった。

一匹しかいないと思っていたたぬきが、実はこんなにもたくさんいたことに、まるで異世界に迷い込んでしまったかのような、不思議な感覚に包まれた。さっき私の指を引っ張っていこうとしたのは、ひょっとしたら家族のところに餌を持って帰りたかったからなのかもしれない、そんな想像も頭をよぎった。思わぬ出会いに感謝しつつ心の中で餌を与えてやれないことを詫びつつも、私は部室を後にした。

そしてまた来た時と同じ星空を眺めながら帰途につく。不思議な夜だった。その夜の星空は、心なしかいつもより数が多いように感じられた。あれは、現実だったのだろうか。今でも時折、あの夜の不思議な出会いを思い出すことがある。もし、あの時ハンバーグを分け与えていたら、たぬきともう少し仲良くなれていたのではないかと。

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