起業しようとしたら投資銀行出身&海外大学卒という人物が近づいてきた話と、そこから学んだ6つのこと

スタートアップ企業を立ち上げようとすると、さまざまな人物が近づいてくることがある。私も興味深い体験をしたので、自分の心の整理と今回学んだことの棚卸しを兼ねて、記事としてシェアするために筆を取った。

ちなみにビジネスモデルは、とあるレガシー領域をいわゆる創発システム化(平たく言えばマッチング)するものである。くまなく調べたが、本日(2024/03/14)時点では国外を問わず類似のサービスは存在しない。利権が絡む業界ではあるが、この領域を世界規模で創発システム化することが、大きなビジネスチャンスになると考えた。

そんな中、ある時、私のアカウントに一通のメールが届いた。その送り主が、本記事で取り上げるUという人物で、内容は私の起業をサポートしたいという申し出だった。 Uは米国東海岸の大学を卒業し、誰もが知る米国の大手投資銀行(GSではない)に1年ほど在籍した後、米国で起業し、イグジットも経験したという人物だった。

華麗な経歴を持つUに、私のビジネスモデルを「面白い」と言われ、有頂天になった私は、これぞ好機とばかりにメンバーに迎え入れることにした。

ただ、スタートアップ界隈では、派手な経歴を持ちながらも実務がまったくできない人物がいたり、さらに、経歴を誇張してCxOの座を手に入れ、片手間で高額な役員報酬やストックオプションを得ようとする人物もいると聞いていたため、そのため、私も当初はUに警戒心を抱いていた。(なお、一度役員として採用すると、任期中は継続して役員報酬を支払わなければならないため注意が必要である。)

しかし、Uは雑談の中で、自身の経歴を裏付けるような経験談をいくつも披露した。そのため、Uとの会話を重ねるうちに、私の警戒心は徐々に薄れていった。

Uは学生時代の出来事、投資銀行での仕事、米国での起業の苦労話などを語ったが、そのどれもが詳細で臨場感にあふれていた。もし彼が経歴を詐称しているのなら、ここまで具体的に語るのは難しいはずだと考えた。

Uと起業のプロセスを進めるために共同で作業をしていたのだが、そんな中、次第にUに違和感を覚えるようになっていた。

例えば、一つ例をあげると、まるで漫才のようだが、ベンチャーキャピタル用の資料の読み原稿を作成している時に、とある理由で二つのスライドを合体させる必要が生じた際、Uはそれに伴い、読み原稿の内容も合成すると言い出した。その作業のことを彼は「がっしゃんこ」と呼んだ。

私は、限られた時間で相手を説得するための口上は、決して「がっしゃんこ」からは生まれないと考えていたし、そもそもいちいち「がっしゃんこ」させて意味の通じる日本語に仕立て上げる作業自体がかなり時間と労力がかかる。本来、相手に思いを伝え、説得するためには、いかに短時間で効果的に話すかが重要であるべきだ。決して「がっしゃんこ」ではない。こんなことは、中学生や高校生でも理解できるだろう。

しかし、Uはスライドに記載した内容も含め、まるでプログラミングのように原稿を合成したり分離したりして、時間をかけて詳細に相手に伝えることにこだわった。そのため、資料を変更するたびに、無意味で複雑で骨がおれる「がっしゃんこ」が発生し、貴重な時間を浪費してしまった。

私は、指導を受けている立場として、こんな初歩的なことをUに指摘して、彼の機嫌を損ねたら今後有益なアドバイスをもらえなくなるかもしれないと考え、適切なアサーションを怠ってしまった。その結果、後にJAFCOをはじめとするVC担当者の前で大恥をかくことになった。(他にも「全部吐き出す問題」や「私も動いてみます問題」などがあったが、ここでは割愛する。)

私が思うに、おそらくUは投資銀行出身で、目論見書などを作成する作業と、プレゼン用の読み原稿を作成する作業を混同していたのではないかと考えている。その一方でこの無駄な作業が、Uにさらにビジネスモデルを理解させるためのものであれば、意味があるかもしれないとも思い、納得することにした。

つまり、スライド作成の目的がVCへのプレゼンではなく、Uにビジネスモデルをより深く理解させることだと、私は手段と目的をすり替えてしまったのだ。このようなことも我慢しなければならないくらい、この時の私はスタートアップの世界について無知だった。

ちなみに、Uは他のスタートアップにも参加して同様の指導をしているらしく、そちらではこの「がっしゃんこ」について文句を言われたことがあるようだ。私にも「過去の職場とかでこういうことしなかったですか?」と聞いてきた。もちろんやるわけがない。Uはどうやら自分のやり方に問題があるとは全く思っていないようだった。

おそらく、Uはプレシードやシード期のスタートアップではなく、もっと後のステージ、例えばIPO前後以降のチームであれば活躍できるタイプの人間なのだろう。おそらく未上場株を欲しがり、スタートアップの内部に入り込んでストックオプションを手に入れようと、このような活動をしているのだろうと考えた。

結論として、私のステージでUと組んだことは大きな間違いだったと今では考えている。振り返ってみると、Uはスタートアップの初期段階でやるべきことに対する知識が非常に不足しており、リスクの見積もりも極端に甘く、過度に楽観的であった。リーンスタートアップや顧客開発などの知識は、本で勉強していた私よりも知識が無いと思われる節があったぐらいだ。また、私に指導やアドバイスをする際、別の知り合いから聞いた情報をそのまま伝えただけのような節もあった。

海外の大学を卒業し、投資銀行出身でイグジット経験もあるという点はおそらく間違いないものの、だからといってそういった人物がスタートアップのCxOに必要な知識を持っているとは限らないということを、今回、私自身が身をもって学ぶことになった。また、スタートアップが通常の会社とは異なる特殊な状態や形態を持っているという認識も、今回の経験を通じて新たに得ることができた。

そうこうしているうちに、ランウェイ(資金)はショートしてしまった。主な原因は、単純に私の個人資金が尽きたことだが、それでもUのアドバイスや指導ではなく、一般的で常識的なプロセスに従って資料作成や事業を進めていれば、作業はトータルで半分の時間で結果を出せていたはずだと、今でも悔やまれてならない。起業経験の不足に加え、彼の派手な経歴と甘い言葉に目がくらんでしまったことが私の失敗だった。

結果、会社は数十回のVCへのピッチ以外、ほとんど活動らしいことをせず、メンバー3人は解散し、事業を閉鎖することとなった。Uからは「アイデアを温存して、復活後に再挑戦しよう」と提案されたが、この時点で、何一つリスクを負わず、私にはデッドファイナンスを使ってでも事業を続けさせようとするUに対し、不信感が決定的になった。

このため、私は一度全ての関係を解消し、Uとの縁を切る決断をした。具体的には、Uに対して「事業の閉鎖とメンバーの解散」を宣言したのである。これは、もし私が将来的に復活することがあっても、彼との関係まで復活しないようにするための儀式のようなものであった。今後、彼と組むことは二度とないだろう。

私は、本当はこの記事で特定の人物を批判することは本意ではない。この記事はあくまで私の経験をもとに、私自身が同じような失敗を繰り返さないために状況を整理し、ここから教訓を抽出することが目的である。また、この記事を世に出してアウトプットすることで、自分の学びをさらに洗練させていきたいと考えている。

今回の失敗から学ぶことは多かったが、それにしてもかなり高い勉強代となった。元々の私の無知が原因であり、全ては私の未熟さによるものであることは間違いない。それでも、この失敗は私の成長にとって必要な経験だったと思える。

今回の大きな失敗から学んだことは、以下の通りだ。

① 起業メンバーに「投資銀行出身」や「海外大学卒」といった肩書きは、全く必要ない。むしろ、そういった経歴を持つ人物をメンバーに加える際は、慎重に判断しないと、鶏小屋に狐を入れるような危険な事態を招く可能性がある(最悪の場合、CEOを潰してビジネスモデルを自分の投資先の別会社に移植させるなどといったこともあり得る)。

② スタートアップは一時的で特殊な組織形態であり、通常の企業とは異なる(スタートアップは大企業の縮小版ではない)。そのため、高学歴の人物だからといって、その人物がスタートアップという特異なチームに適切なアドバイスができるとは限らない。

③外部から参加してストックオプションを欲しがる人は、何か問題が起きたときに自分へのリスクを最小限に抑えるため、社外取締役や顧問などのポジションを希望することが多い。おそらく何かあった時にトカゲの尻尾切りのごとく離脱しやすいようにするためだろう。こういった人物は自分の発言に何の責任も負う必要がないため、CEOが判断を誤る元となりやすい。

④ CEO(起業家)は資本政策についての勉強を決して他人任せにしてはいけない。特に、ストックオプションの運用方法は非常に重要である。

⑤最低でも、PMFぐらいまでは余計なCxOなどをチームに入れる必要は無い。派手な経歴のメンバーはむしろ不必要なダイリューションを招き企業価値の毀損につながる可能性がある。

⑥ 違和感は当たる。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。皆さんの事業の成功を心より願っております。

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